「何で・・・死ぬ事すら、出来ないの?」
三日もの間、昏睡状態だった優紀であった。
最初の一言目から、死に切れなかった自分を悔んでいる。
ベッドの上で、焦点の定まらない目を泳がせる。
「それは未だこの世で、生きなさいと神様が教えて下さるから」
部屋に到着した桜子が、優紀の手を握り締めた。
「優紀がまさか、そんな事するとか思い付かなかった。どうして、アタシに相談してくれなかったの?」
「つくしに相談すると、まさか司がとか?」
滋が間髪入れず、ぶつけてくる。
「司は関係ないし、今回の話はしてないよ。義姉様にお願いしてるから」
つくしがコクコクと頷く。
「中務にかなり脅されてたみたいですね」
優紀は自分の生命保険や定期預金迄解約し、全てが中務に渡った事も明らかになった。
「取り敢えず、意識が戻って未だ間もないから。今日はこの位にね」
静が入室したところで、話は打ち切られた。
彼女は弁護士の他に、カウンセラーの資格を取得していた事を知るのは後日談の話。

「優紀さんが、脅されたのってもしかして此れ?」
それは茶封筒にくるまれた、写真の山である。
今となっては、黒歴史と言ってもおかしくない。
メープルから出て来る所を、隠し撮りしたのだろう。
「SNSに上がってたらしいわ、茶道関係者が此れを見て私に依頼したのよ」
病院の喫茶室で、滋につくしに静と桜子がテーブルを囲んでいる。
「総二郎に知られるのは、時間の問題つうか」
「ニッシーの事だから、知ってるんじゃないのかな」
「優紀さんは?」
「SPを付けてるから大丈夫。類がよこしてくれたんだわ。女性だし、同年代だから」
SPを付けないと、優紀が衝動的に自殺をしかねないと医師から言われた為のやむを得ない事情でもあった。

「総二郎も迂闊だったわねー。過去の話とはいえ・・・ね」
その総二郎は駆けつけたいのは山々らしいが、マスコミ対策と実家で家元から釘を刺されているそうで。
身動きが取れないのだ。
「伝統芸能の世界ってのは、体面を重んじますからね。例え、過去の写真でも」
「一体、何年前の話よ。アイコラかもしれないのに」
滋が拳を挙げたその時である。
「アイコラって話は考えにくいかしら?」
静はヒントを提言してみたに過ぎない。
「そのアイコラ路線を探ってみようじゃないの?優紀がお天道さまの下歩けない生活とか、おかしいからさ」

「だーかーらってなあ、何でこう言う時のオレ頼みかよ」
つくしと静は都心の純喫茶の店に、カジュアルジャケットにロンゲ姿の青年と再会を果たしていた。
「友人の名誉を助けるためと思って・・・ね?」
上目遣いにさりげなく、つくしに拝まれるが。
「オレさあ、未だ死んでないし」
「亜門だから、頼めるのよ」
「旦那いるんじゃ?」
「倍返しだろうけど。
今回ばかりは、司が表立ってはいけないから。
マスコミを抑えるのは頼んだ」
「怖い奥様だよなつくしは」
蛇の道は蛇を知るで、呼ばれたのが亜門だった。
楓からかつて、カネで司との交際を妨害したかつての敵であったが。
今はバーテンマスターとして、都心に店を構えている。
政界から極道迄、情報屋の機能も備えた店舗。
裏社会にも詳しく、此れで実は道明寺HDの危機を救った事もあるのだ。
「まあ、おタク並みに詳しい仲間も居るからな。ちと、それで当たってみるわ。叶わねえわな」
同行した静は只驚くばかりであった。

道明寺邸からの送迎車内では、静がクスリとしながらも窓から曇の流れを観察している。
「逞しくなったのね、つくしさんは」
「優紀は、私の親友です。私が英徳で孤立化しても、司と交際していても。色眼鏡で見なかったし、変わらなかったから」
「つくしさんがそもそも、あの子達を救ったようなもんだわ」
「司がよく前科持ちに、ならなかったなって思います」
「とにかく優紀さんを・・・」

ガシャーン。
何かが割れる音と看護士らしき、女性の悲鳴が特別室から交互に響く。
急いで駆けつければ、SPらしき女性と看護士が優紀に近寄ろうとするが。
「又、優紀が」
特別室では優紀が割った物の破片で腕を切ろうとしていた。
「松岡さん、落ち着いて」
看護士が説得を試みるも、優紀は極度に興奮して回りが見えないようである。
「私、死ぬのよ」と、何度も言い聞かせてるらしい。


「優紀、止めてよ。お母さん悲しむよ」
「何も信じる事出来ないの、中務は又来るのよ」

錯乱してるのか、優紀はフラフラとベッドを抜け出しベランダに向かう。
滋とつくしが、体当たりで優紀を押さえつけるが。
興奮する優紀は、欠片を以て暴れる。
「痛い」
「つくし?」

つくしの腕から、ドクドクと血が溢れ出す。
「優紀、辛かったんだよね。アタシ達に頼りたかったけど、F4の名前が邪魔して中務に脅されてたんでしょ。ゴメンね、優紀」
「つくし、治療しなきゃ」
つくしは、更に話を続ける。
「優紀、死ぬのは楽だって。タマさんが言ってたよ」
少し離れて静が、ゆっくりと話す。
「優紀さん、ショックだったでしょう。
だけどね、行きたくても行きられない人も居るの。生きる事を放棄するのは、駄目」
つくしは血が更に溢れても、優紀の腕を握り締めた。
「アタシ達は親友でしょ、何でも言ってよ。
隠し事はしないで」
「ニッシーが今の優紀ちゃんを見たら悲しむよ」
「・・・・」
何時か見た女性誌の、色褪せた記事や総二郎との
束の間のデートを重ね合わせると。
高校生だった時の自分が、大胆にも総二郎に告白した事。
『私のファンタジスタです』が、フラッシュバックする。
優紀はいつの間にか、涙が零れていた。
「つ・・・・・く・・し」
破片を手放し、座り込む。
優紀は意識を失い、つくしはようやく自分の腕から大量出血していた事を自覚した。

後日だが、つくしは司から『外出禁止』を言い渡されたのは今更の話。




それから、3ヶ月の月日が経過した。
亜門からのメールで、写真は全て捏造であった事が発覚した。
優紀の名誉は、守られたらしいが。
「そもそもが、千人斬りの前科ですからね」
「変わらなかったんじゃない?西門さんなら」
総二郎の名誉が守られたかは、定かではない。

「此方の心臓が持たねーよ」
「気づいたら、血だらけになってたの」
斬られた腕の傷も後が残らず、一安心のつくしであったが。
「まあ、跡付けていいのはあん時だけな」

又もや言い争いが始まり、タマからの杖による仲裁が入った道明寺邸は今日も平常運転の日々。


「司、優紀の件なんだけど」
「おう、姉ちゃんが動いてっから」
「有難う」
「倍返しはあっちな」
ニヤニヤしながら、司はつくしの唇に濃いキスをした。
『コイツの盛りだけは、どうにかならないかしら?』
今晩は、寝かせて貰えないようである。


退院後の優紀は、道明寺邸で暫く静養していたが。
義姉の椿の計らいで、ロスにある総合大学へ留学する事になった。
3年の期間で、椿の所有する別荘で静養を兼ねてだ。
優紀は辞退したかったが、つくしからも『日本では知られ過ぎたし色々厄介だから』の一言で受け入れたのである。



空港ターミナルには、つくしと静や滋に桜子も居る。

「椿お義姉様に、宜しく伝えといてね」
「メール待ってるよ」
「何事も前向きにね、貴女は一人ではないから」
「中務、逮捕されたみたいですから。自分の人生を謳歌して下さいね」
つくし・滋・静に桜子から、激励されて優紀は鞄を持ちながらニコニコ笑っている。

つくし達が手を振る前で、優紀は搭乗ゲートに向かっていった。


待合室で、優紀は飛行機を待ってた時である。
見上げた先に見つけた、優紀の大切にしていた思い出。
「西門さん」
「優紀、やっと会えた」
「よく、入れましたね」
「司に頼んだ、どうしても行く前に」
総二郎に革命を起こし、家元として本気で取り組む事を決意させた優紀の存在。
「家元襲名の時には、一時帰国しますね」
「本気のオレに向き合ってな」
「関西弁、聞けないのは淋しいかな」
「優紀、家元として強なって待ってるわ。万人斬り達成するで」
ニコニコ笑いを浮かべて、キラキラと光が降り注ぐ優紀の横顔。
すかさず総二郎は、深く口付けた。
鞄が落ちて、力が抜けそうになる優紀を強く抱き締めながら。


「西門さん来てたんだ」
「今頃、お名残惜しんでるんじゃない?」
「人の恋路を邪魔するのは、馬に蹴られて死ねですよ」
薄墨の空は、何処迄も澄んだ日本晴れであった。

-完-

初の総優作品でしたが、如何でしたでしょうか?
今となっては、懐かしい作品になります。
優紀がピュアだったのに、今や・・・(笑)。
又、次回作でお会いしましょう。
な、訳で暫く休載・・アカンやろな(*_*)。
悠香


ポチ出来るか、実験しとります。



にほんブログ村 二次小説
スポンサーサイト
以前、掲載した作品の再録になります。
総×優に付き、苦手な方は閉じて下さいね。


その日つくしは、久々に桜子と郊外のレストランで食事中であった。
「涼しくて、過ごしやすいね」
桜子は近くに、美容関連施設の下見を兼ねてである。
「車で来るには、長い距離ではありませんし。近くに、レストランを併設するのも悪くありません
が。よく道明寺さんが、外出許してくれましたね」
つくしが道明寺財閥の御曹司である司と、付き合ってから7年が経過している。
籍を入れる事は出来たが、又離れた暮らしを強いられてつくしは何故か邸に通う生活を選択した。

と、言ってもSPが24時間付かず離れずで、常駐しさせる事を折衷にして。
「まあ西田さんからも、セキュリティの都合とかね。あんだけ、秘書さんを困らせるなって言ってるのに」
桜子は、ミルトンのカップを取りながらクスリと笑う。
「愛されてますよ、先輩は。私は未だ婚活パーティーの梯子ですわ」
「よく言うわよ、美作さんと付き合ってんのは誰だったかな?」
「あら、ご存知でしたの。知られてないって自信ありましたのに、滋さんの勝ちですわ」
「桜子、アンタまさか賭けにしてたの?」
「一昨日の飲み会で、賭けの対象にしましたの。ドンペリ1本奢りの」
悪魔の様な笑みをも浮かべ、口元を桜色の扇子で隠した。
「司といい、桜子もさ。どうして、アタシの周りはこうも」
「あら私から見れば、先輩も大概ですよ」
つくしは立ち上がり、桜子を叩こうとした時である。
着信を告げるバイブで、つくしはレストランの外に向かった。
「ちょっと失礼するわ」
急ぎつくしは、走りながらオープンドアをあけた。

桜子はタブレットを開き、滋宛てに賭けの結果を送信する為に、左手の人差し指を動かしている。


『御無沙汰してます、つくしです。皆様、お変わりありませんか?』
つくしの様子を見ながら、タブレットを見ていた時である。
『エ?やだあ、お母さん冗談キツいですって・・・・』
何やら電話口のつくしが、震えているようだ。
トーンも上擦っている感じで。
桜子はタブレットを片手に、つくしの側に駆け寄る。

『そ・・・・そ・・・・んな、あり得ないて』
つくしは受話器を落とし、その場に座り込んでしまっていた。
「先輩、どうしたんですか?」
「・・・・・・・」
「お電話、どちら様からですか?」
「優紀のお母さん・・・」
つくしは腰が抜けてしまい、武者震いをしている。
「優紀・・・自殺しようと・・したの」
言葉がたどたどしく、放心状態のつくしに桜子は顔面蒼白になった。
「病院の名前聞いたんですか?」
「優紀・・・水くさいよ」
座り込んだまま、涙が溢れて来るつくしに桜子は取り敢えず滋に連絡を取ったのだった。


桜子の機転で滋の方を通じて、病院名を調べて貰うと直ぐに特別室への入院手続きを済ませた。
つくしは優紀を守る為に、弁護士を頼んだのだ。
「つくしさん、待ったかしら?」
「静さん、お久しぶりです」
国際弁護士の肩書きを持つ藤堂静へ、縋りつくように連絡を取った。
「つくしさん、大変だったわね。優紀さんだったかしら?簡単に調べたけど、相当な額を作ってたみたいね」
「優紀が借金するなんて、考えつかないんです」
つくしは、俯いたまま泣きじゃくっている。
「あたしも連絡欲しかったのに、避けてたみたいで。悔しいです」
「問題が問題だから、此の話を知ってるのは私とあきらだけ」
「総二郎と司は、感情的になるから。問題が大きくなるだけだし、この中務とか言うのかしら?この人、指名手配扱いになってるわ」
「指名手配?」
「ええ、振込詐欺の出し子の元締めで。残念ながら、韓国経由で中国に出国したみたいね」
中務に関しては、あきらが後ろから暗躍する事で決着するのは時間の問題との事であった。
「問題は優紀さんの方ね、とにもかくにも彼女を心の闇から守るのと。自殺を再発させないように」
つくしはショックで、待合室でも泣くばかりであった。
滋と義姉の椿が到着した事も、全く気が付かないつくしだった。
「中務。滋ちゃんが見たら、東京湾に沈めてやりたいわ」
「ホントそうですよ。女の敵、許せないです」
優紀は幸い発見が早かったので、数日中に意識は取り戻すと医師からは告げられたそうである。

「優紀がご迷惑おかけして、すみません」
母の陽子が、旅行カバンを転がしながら挨拶をする。
小柄で小太りながら、温かみのある風貌をしている。
「いえ、私達の方こそ優紀には世話になってばかりで・・・」
「でも此方って、特別室ですよね。普通の病棟で・・・・」
すかさず、滋が返す。
「費用は心配しないで下さい。入院費用は、私達がお世話になってる分の恩返しですから。優紀ちゃんは、大事な友達ですし」
まだ言い募る陽子に、つくしはその体を抑えた。
「叔母さん、優紀の事よりもお姉さんは大丈夫なんですか?」
「ええ・・・未だ退院は難しいんですけど」
「尚更です、優紀は私達もついてますから。お姉さんに付き添って上げて下さいね」
陽子を説得して、T3メンバーは静達と協議したのだった。

数日後、滋が特別室で「アップルパイ」を頬張っていた時。
優紀の意識が戻ったのである。





人気ブログランキングへ

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
以前書いたお話の再録になります。
若干の加筆修正はしてあります。
CPは総×優になりますので、ダメな方はそのまま閉じて下さいね。


この時の雨は、とても冷たく感じたと今は思い出す。
都立高校から、私立の短大に進んだ松岡優紀は都内の事務所で働いている。
四大に進み教諭を目指したが、姉の夫が事業に失敗し家族ぐるみで借金を背負ってしまっていた。
姉の葉月は早くに結婚したいと、偶々職場で知り合った夫と結婚をしたのだが。
姉を残して夫は、事業を始めてしまったのだった。。
運転資金で一千万を借りたものの、杜撰な経営とチェーン店舗に圧されたったの三ヶ月で倒産したのだ。
多額の借金に、葉月は夫と段々口喧嘩が絶えなくなり間もなく離婚した。
その葉月も鬱になって入院してしまい、費用は更に重むばかりだった。
(つくし並みの不幸である)
肝心の元夫はあちこちで職を転々とし、返済する気は全く無いらしい。
棲みかも転々とし、来るのは消費者金融からの督促状ばかり。

優紀はその日だけ残務整理を終えて、車を降りてアパートの鍵を開けようとした時だ。
一人暮らしを満喫していた、その矢先。
「優紀、久しぶりだよなあ」
薄汚れたポロシャツに、髭面と鼻ピアスの男が近寄って来た。
「ま・・・さか、中務君?」
何日も風呂に入ってないのか、強烈な臭いに優紀は鼻をしかめる。
「思い出してくれたかよ、あん時は赤っ恥掻かせてくれやがってな」
中務は優紀が総二郎と付き合う前に、一時的に付き合った男だった。
あの後中務に倍返ししたのは、総二郎との遣り取りで。
「此方よお、見覚えあんだろ」
それは総二郎との、デート写真を何処からかネガごと入手したのだった。


優紀の顔からは、血の気が引いて行く。
何時頃のかは、もうかなり前の話で覚えてもいない。
総二郎とは、高校の一度しか付き合わなかった。
(以来目立った付き合いはしてない)
ましてや義兄の不祥事が発覚してから、連絡は途絶え勝ちだ。
つくしや仲間内からも、心配されるものの。
優紀はやんわりと『心配しないで』と断るばかりで。
が、中務は容赦しない。
優紀の白磁で艶やかな肌に、ベタベタと触れる。
「ましてや、借金まみれたあな。なあ、優紀。知られたくないよなあ」
「何をすればいいの?」
「カネ借してくれや」
真っ赤になりながら、首を振ろうにも拒絶は出来なかった。
幾筋もの涙以外、優紀は座り込んだまま動けなくなってしまった。


其れからの優紀は、多額の借金ばかり抱えてしまった。
家庭教師の副業から、水商売の仕事に転職した。
都心からも離れ、憔悴の日々を送るのだった。
中務は毎日のように金を無心し、肉体関係すら求めてこようともした。
が、それだけは絶対に拒絶したのだ。
総二郎との、思い出までが汚される事は耐え難い事だったからだ。



時は、5年が経過していた。
優紀は毎日仕事に励み、中務からの更なる無心に怯えるばかりだった。
つくしにすら連絡もしなくなり、自分の会社でも口数が少なくなった。
余りの変わりように、会社の仲間も引いてしまうようになった。
松岡家の借金は少なくなり始めたが、優紀は精神的に追い詰められていた。
テーブルの上の女性誌で、F4特集を開いたまま。
色褪せた取れ掛けた、post itを幾重にも貼った頁。
総二郎のインタビューが、掲載されていた。
総二郎の和服を誇らしく身に纏い、日本文化を世界に発信していく事の意気込みを語る頁。
何度も読んでは涙した、彼は自分の全ての支えだった人でもある。
「ゴメンね、つくし。・・・・・・有難う、総二郎さん」
大量の睡眠薬を飲み、アルコールをがぶ飲みして優紀は自殺を図ったのだった。



その日は冷たい雨と薄暗い空模様が、優紀の心情を映しているようで。

再録でスミマセン。
限定公開にしてましたので、改めて公開設定に致しました。
総優ファンの皆様、と紫様大変お待たせしてます。

にほんブログ村 二次小説

人気ブログランキングへ