「はーい、シンガーソングライターの星川さんによる○○の歌でしたあ」

明るい溌剌な女性司会者の声が、郊外の会場に大きく響く。
星川はお誂えのセットに、セッティングした愛用のキーボードから歓声を浴びる。
とは言っても、買い物帰りの冷やかし客や親子連れの類いばかりである。
星川は普段はとある有名バンドの、ローディーを兼ねてサポートメンバーもしている。
が、未だ知名度は、そんなに知られていない。
当然だが日銭稼ぎレベルに、毛が生えた程度のレベル。
バイトを掛け持ちも出来ない為、珠に町中で開かれるイベントに出たりしては日当を稼いだりもしている。

先日バックメンバーのコネを使い、デモテープを送ってみた。
感触あったのか、インディーズでデビューが決まった。
しかし益々生活は困窮するばかりで、同棲している彼女からは別れ話を切り出されている。
「あー、やっぱだよなあ。晶が愛想付かすのも、仕方ねーか」
星川には長年付き合っている晶と言う彼女が居る。
プロになって何時かは、と言って来て居るが。
未だ彼女を食べさせて行ける生活力が、無い。
彼女は看護師で、不規則な生活をしながらもずっと星川と交際をしている。
イベントが終わり、器材を自宅に運ぶ。
星川は溜め息を付きながら、何時もの公園でギターを片手にコードをノートパソコンに打ち込んでいく。
曲は頭に思い付くが、それは実を結ぶかと言うと微妙なものである。
自分の感性と世間の求める物が、必ずしも合致するとは限らない。
赤いタータンチェックのバンダナを巻きながら、煙草を吹かしてノートパソコンに打ち込む。
が、今日は何時ものキレが無い。
魂を揺さぶるメロディーが、浮かんで来ない。
星川の目前には、桜の木が覆い立つ。
花びらが舞い散る、もう春から初夏に移る事を桜は察しているのだろうか。
ローディー仲間からは、インディーズデビューをお祝いしてくれたものの。
メジャーは未だ遥か先の話だし、晶との話し合いは平行線のままである。
デビューを飾っても、喰えないレベルでは『悩む日々』は続いている。
星川は自問自答していた。
「やっぱり、オレは才能が無いんだろうなあ」
パソコンに保存しながらも、二本目の煙草に火を灯そうとした時だ。

小さく華奢な女性が、桜の木を目掛けて走り込んで来る。
足をもたつかせ、転倒しそうになる・・・女。
星川は反動的に、女の手を抑えるも自分が転倒してしまっていた。
「キャッ・・え?」
大きな瞳を見開き、女は座り込んでいた。
「ッテェ・・・おいっ・・勘弁して・・く・・」

星川は女の顔を見るなり、直感していた。
自分の彼女である、晶を思わせる雰囲気。
女は座り込みながら、星川に謝り倒していた。
「ゴメンね・・・あたしが、ドン臭いから」
大きな瞳が心底申し訳なさそうに、星川を見つめる。
『オレがフリーだったら、付き合ってたかも』
白いトップスに、青の花柄スカートで艶やかな黒髪と一点物らしきブレスレット。
女の瞳からは、涙の伝った跡が見えた。



ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村






二次小説ランキングへ
スポンサーサイト
Secret