この世の中に、全てを兼ね備えている人間がいたらお目に掛かりたいものである。
が、それは案外近くにいた。

「お前迄帰すとは、言ってねーな」
昼間からバスローブで、何時ものクルクルではなくストレートにしたたり落ちる雫。
つくしはため息を付きつつも、内心密かにギクッとした。
『さっきのあの状況で、まんまならばお笑いになりかねないわよね』
「当たり前だ、あれは見せられたもんじゃねーな」
道明寺財閥の次期総帥、『道明寺司』はつくしのみを此処に残して残りは即返品している。
司は幸いにも惨事には至らなかったが、一品仕立てのスーツは既に処分の運命になった。

残骸を被ったのは、クリーニングと言う手もある。
が、流石にそれは司の頭ん中には無い。
重役会議は既に名前ばかりと化しているので、自分は体調不良と称してメープルの執務室に居る。
その手のケースは度々生じるのか、秘書の西田が仕切っていた。
「やっぱりお前が絡むと、何かしらあるって事だな。お前はオレのもんだし、素直に甘えりゃちったあ可愛い気・・・」
「はあ?次期総帥よりも、あたしは時期雑炊の方が全然良いわ」
世界的御曹司で絶大な権力と美貌を持つ、この男を目の前にしてもつくしは一睨みするだけだ。
司はつくしの小顔を片手で掴む、その仕草。
大抵の女性は此れだけでKOだが、其処はつくしである。
完全にウンザリした表情で、目線すら会わせようともしない。
「最愛の旦那様にそんな表情すんじゃねーよ」
「誰が旦那様?厄介な障害物に当たって、アタシの人生お先真っ暗以外何もないわよ」
「可愛いくねー、少しは労るとかって想・・・」
「オレ様なアンタにそれこそ、鬼の攪乱とかアタシが言われるの」
つくしとて司に会えるのは、嬉しいのだが。
このようなケースは、絶対に社会人のプライドが許さないのだ。
「そりゃあね、岡田君のやった事は許せないかもしれないけど。わざとじゃないんだし」
「事務所と交渉すれば済む話・・・」
とつくしが言い掛けた時だった。
「オメーは、何で他の男に直ぐキョトキョトしやがんだ」
「は?」
「オレ様っつー、伴侶が居るのに」
何だか雲行きが怪しくなりつつある。
「弁当の件は悪いと思ってるよ。でも岡田君やカズさに・・・」
つくしは司の導火線に、火を付けてしまったようである。





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