「ゴメンね、優紀・・・今は、次期家元夫人って言うべきかな?」
「いい加減にして頂戴。つくしに迄言われたら、ウチは虫酸が走るわ」
優紀はつくしの手に、自分のを重ねて正面を一点に集中している。
西陣の振り袖を着用となると、何処かで茶会に参加した帰りであろう。
短髪の寧ろ尼さんに近い風貌で、高級な西陣織には違和感が無いと言えば嘘になるだろうか。
「何で優紀は分かったの?」
「総二郎はんのとこにな、連絡入ったんよ。道明寺はんからね、緊急なんか知らんけど。ウチは総二郎はんから、つくしの行きそうな店聞かれたから」
優紀が未だ独身だった頃で、就職してから間もなく行ったのがあの店だった。
つくしと一緒に、恋愛やら職場の悩みを女子会名目で飲みに行ったのもこの頃だ。
慣れないOL生活は辛くもあったが、それなりに楽しかった事も思い出として残る優紀の記憶。
残念ながらその半年後に、優紀は結婚を選択したのでOL生活は長く続かなかった。
結婚の後には、立て続けに出産を経験した優紀だ。
「優紀・・・?」
「何?つくし・・」
「今の生活を後悔してる?」
信号に引っ掛かり、中々先に進まない事に苛立つつくし。
「何でつくしがそないに思うん?」
「優紀の生活も一変しちゃったから」
結婚してからは、京都へ拠を移した事もあり言葉も幾分きつく感じる優紀の印象だ。
「確かにね。最初から全く思わんかった言えば嘘。でもね、それだけでは無いんよ」
「強いよねえ、優紀ったら」
「ウチは結婚して、子供も授かってからは変わったわ」
優紀は既に二児の母でもある。
「そうそう、この子も耐えてくれてはる。西門流の茶道が厳しかった頃を思うとね。茶道界で、あたしが甘える余裕もないわ」
「へ?優紀・・・あんた、まさかっ」
「うん、もうすぐ四ヶ月に入るんで。最初に比べたら、結構楽やしね。二人共、男やから女の子欲しいなあ」
「優紀は女の子無理じゃない?何か又、男の子ぽいかも」
「つくし迄酷いな。絶体に女の子産んでみせるわ」
優紀の女の子が欲しい話は、何時まで続くかは定かでない。
「良かったわ。つくし、さっきよりも少し元気になってくれたね」
「やっぱり結婚しても優紀だねっ、あたしの知ってる優紀で良かった」
「つくし。人間は見た目変わっても、中身迄は難しいってもんやから。確かに、色々な人間と接する機会も増えて来る。それでもね、本質迄は中々変われないってもんよ」
慣れない世界に身を置く優紀であるが、結婚や出産・・・何よりも伴侶は元々が浮き名を散々流して来た人間だ。
今も花柳界から、お茶屋に芸舞妓や師範代の女性等事欠かない。
優紀の立場上は『正室・北の方』みたいなものだ。
「優紀が強くなるの何か分かるよ。」
いつの間にかつくしの涙は止まっている。
「もうすぐ着くみたいね」


つくしと優紀を載せた車は、K県に近い海沿いの高台に築かれた城塞に近い作りの病院に到着した。
車から下りるなり、運転手がつくし達に恭しく礼をする。
「広いね」
つくしは病院の前に立つ、大きめの白い看板に圧倒されていた。
『道明寺HD&英徳大学医学部付属病院』の文字に。

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